2010年5月26日水曜日

国家の謀略


●概要

”異能の外交官”が明かす諜報戦争の舞台裏

『国家の罠』などのベストセラーを持つ佐藤優氏による“初のインテリジェンス指南書”。世界の インテリジェンス哲学・技法から、スパイは「酒・金・セックス」を使ってどのように標的を籠絡するかまでを伝授。


●内容

○インフォメーション
新聞やテレビなどのマスメディア、あるいは噂話やインターネットで入ってくる情報である


○インテリジェンス
インフォメーションと区別され、情報の正確さ、その情報の背景にある事情、またその情報がどのような役に立つかについて評価を加えられたもの


◯インテリジェンスの種類1(諜報)
諜報とは、相手にできるだけこちらの意図を悟られずに、相手が隠そうとする情報を入手することである


◯インテリジェンスの種類2(防諜)
防諜とは、こちらが隠したい情報を相手に取られないようにすることである


◯インテリジェンスの種類3(宣伝)
宣伝とは、ある出来事を説明することで、こちらが有利になるような影響を相手に与えることである


◯インテリジェンスの種類4(謀略)
謀略とは、こちらの弱点をできるだけ隠し、有利な点を誇張することにより、実力以上の成果を相手から獲得することである


◯戦前の情報大国
イギリス、ソ連、日本


◯戦後の情報大国
イギリス、イスラエル、ロシア


◯アメリカのインテリジェンス
元々軍事力が強力なため、インテリジェンスを駆使しなくとも戦いに勝ててしまうため、高くない
他国、他民族の内在的ロジックを捉えるインテリジェンス文化が育ちにくい


◯イギリスのインテリジェンス
「真実のような嘘」と「嘘のような真実」を巧みにブレンドして伝えることがイギリス流インテリジェンス
イギリスはインテリジェンスに本気で取り組むときはBBCを最大限に活用する
他社の内在的論理を理解する能力が長けている。またやりすぎない



◯中小国のインテリジェンス
中小国ほど特定分野に強いインテリジェンスを持っている
ヨルダンのチェチェン情報、エストニアのロシア情報、オーストラリアのインドネシア、パプワニューギニア情報、バチカンの中東情報


◯エリント
アメリカ型インテリジェンス。
CIAは、情報収集、評価、分析部門を厳格に区別する。
人間誰しも自らが収集した情報の重要性を過大視する傾向があるので、情報収集者の主観を排除して客観性を高めるため、情報収集、評価、分析に関わる部局を厳格に区別する。
例えば中国分析官には中国語の知識は必要とされず、英訳された資料の分析に専念する。現地にも偏見をもたらすため訪問しない
また、政策の企画、立案とは一切離れた独立の機関であることが、政策によって情報が歪められないためには不可欠だと考える


◯ヒュミント
イギリス型インテリジェンス。
理論よりも経験を重視する柔軟性にある。また長い期間かけて育成した人間的ネットワークを最大限に活用する
謀略の極意は相手の生活環境に自ら入っていって宣伝することと考える


◯アルジャジーラ
アルジャジーラは現在もBBCやイギリス政府とは良好な関係を維持しており、放送されなかった有益な情報がアルジャジーラからイギリスに流れていることは有名である


◯ラヂオプレス
戦後、外務省ラジオ室は財団法人ラヂオプレスに再編され現在に至るが、1994年の金日成死去を世界で最も早く掴み報じるなど今もインテリジェンスの世界で重要な役割を演じている


◯宣伝の定義
「他人が影響をうけるように物事を陳述すること」


◯謎かけ戦術
ロシアが得意とする謀略宣伝技法


◯日本人への警告
最果ての島国に住む日本人は、鎖国的で、鈍感である。しかし、大国は平時でも悪知恵を働かせて、世界的なスケールで謀略宣伝をしてくるのだから、油断は禁物である


◯ヒュミントで情報を入手できるかどうかの基準
第一は協力者がこちら側の知りたがっている情報を入手出来る立場にいるかどうか
第二は協力者が入手した情報を正確に教えてくれるかどうか


◯毒
日本人は政争が激しくなっても毒まで用いるとは信じがたいが、国際スタンダードでは決して珍しくない
シグナルとして毒を用いるのは、ビザンツ帝国の伝統を継承するロシアやウクライナ、ブルガリアやルーマニアではそれほど異例なことではない


◯シグナルのキャッチボール
ヒュミントの世界では、ポジティブインテリジェンスとカウンターインテリジェンスの一進一退のせめぎ合いが日常的に行われている
シグナルのキャッチボールにおいてどこまで踏み込めば相手をどの程度刺激し、それに対してどのような反応が来るかを読むのが専門家の腕である


◯独裁者の情報
独裁者や大統領に極端に権力が集中する国は、首脳の健康状態に関する情報には大きな意味がある
ヒュミント専門家は事あるごとに要人と関係を持つ主治医と接触しようとする
会合などにおいて皮膚や糞尿を入手することもありうる。そのような場合、時刻から持ち込んだ専用の資材で用を足す


◯諜報機関の採用
一つに縁故型。この手の組織は、諜報機関が募集するとインテリジェンスオタクが集まると考え、実際の採用活動の妨げになると考えている
それらの組織は一般的に大学や軍隊から人材を探す


◯自国内の諜報員追放
国際法では「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましくない人物)として国外追放できる
これは基本的に理由を示さなくても良い


◯ペルソナ・ノン・グラータをされた際の対抗策
こちら側もペルソナ・ノン・グラータで外交官を追放するのがゲームのルール。
これを行わなければ「非合法な諜報活動を認め、謝罪したと」受け止められる


◯暗殺の文化
CIA:自動車事故
KGB:偽装自殺


◯暗号と解読
暗号は必ず解読されることが常識である
問題はどの程度の手間と時間をかけるかにある
解読できなくても、通信料が突然多くなると「何か異変が起きている」と分かるので、インテリジェンス専門家はいつもと異なる観察体制をとる


◯第一印象
第一印象は約20秒で形成される。ここで悪印象を持たれると、それを崩す工作には最低1年はかかる


◯インテリジェンスの要訣
現在我々が持っているカードが何であるかを正確に理解し、そのカードをどのように組み合わせ、どの順番で出すかに尽きる


◯秘密業務を行う局の扱い
インテリジェンス関係での公の情報提供は報道担当部局に限定し、実際に秘密業務に従事している部局は隠すというのが国際スタンダード


◯ディス・インフォメーション(偽情報)
断片的な事実を与え、利害相反国に真実と異なる認識を持たせること


○電信官
暗号電報の解読と組み立てを行う、外交業務の中でも秘密にアクセスすることの多い職種


○自衛隊のインテリジェンス能力
国際基準で見た場合、相当高い電波傍受情報の能力の高さについては国際的に定評がある
中国、北朝鮮、ロシアなどの交換物の翻訳、分析して公開情報から秘密を探る文章諜報のプロ集団である中央資料隊の能力は高い
また陸上自衛隊の情報保全隊も防諜のプロ集団で、職員の士気・能力ともに高い


◯防衛駐在官の問題点
日本の場合、防衛駐在官は外務官僚の監督下に置かれ、軍事情報に関する機密情報も防衛庁に直接送ることはできず、一旦外務省を経由しなけれあならない


◯亡命者
地位が低い亡命者は、亡命先での高待遇を期待して、伝聞や創作の話をすることが多い
また、亡命を装って、こちら側を情報操作するという工作も時々使われる
政争のために失脚したもの、あるいは事件に巻き込まれて追放されたものは絶好の情報源である


◯テロの目的
精神に変調を来した人物や、狂信者が突発的に行うものではない。計画性を持って、何らかの利益を求めて行うものだ


◯テロの対処法
テロは政治目的を持って行われるビジネスである。従ってテロによって政治目的が達成されないということがわかれば、テロリズムという流行は去る。そのためには国民がテロに対して怯えないことである


◯自爆テロ
イスラエルでは、従来型の戦争に代わる新たな驚異がテロリズムで、その最も進化した形態が自爆テロであると分析していた


◯イスラエルとロシア
イスラエルはロシアと関係が深く、北方領土関連の情報やロビー活動に最適の場である


◯よい情報源
よい情報を持っている人は社会的地位が高く、倫理的に潔癖な人物が多い


◯弱み
「弱みとは、本人が弱みと思った瞬間に弱みになる」


◯酒金女
酒にしてもセックスにしても限度はある
しかしカネには限度がない。インテリジェンスの世界では「カネが好きなやつは協力者にするな」ということは通説になっている
ただし協力者が医療費、子供の学費、住宅の購入などの使途が明確に鳴っているカネに困っているときは、ヒュミント専門家はそれを最大限に利用し、カネを用立てる


「謀略とは誠」である
陸軍中野学校の教育
「誠」「愛」という一見、工作目的のために協力者を獲得することとは全く異質の原理から出発するところに日本独自のヒュミント文化がある


◯ヒュミントと協力者
協力者に「運営されている」という意識をそれほどもたせずに、自発的に協力しているパートナーであるとの「物語」を維持することがよい情報を得るためには不可欠である


◯協力者の情報
協力者の情報を批判することにより、こちらがどの程度情報をつかんでいるか、あるいはこちら側の意図をつかまれる可能性がある。批判しないで全て受け入れる


◯マキャベリズム
「目的のためには手段を選ばない」といわれるマキャベリズムは、手段の正当性を目的の正当性が優越するリアリズムの哲学である


◯死生観
インテリジェンスに従事するものの国際スタンダードの死生観は、生死の形態にとらわれることなく、生命を最も効果ある形で国家のために使う目的合理性に基づいている


◯諜報員の資質
「ノリつつシラケ、シラケつつノル」ことができる資質を求められる


◯優れたインテリジェンス
優れたインテリジェンス工作はその姿が見えない。従って、何もやらなかった時と、工作が成功した時が表面上同じように見えるのである


◯中野教育の本質
「この道においては、全てが参考意見に過ぎない。自分で考え、自分で編み出し、自分で結論せよということである


◯北朝鮮と中野学校
北朝鮮が陸軍中野学校の教材を用いてインテリジェンス教育を行っているという情報がある


◯マキャベリの首脳像
国家首脳は優しい顔をすることで不利な内容、不愉快な内容を含め、正確な情報を得ることができるが、同時に優しい顔ばかりして怖さのない人物は威厳を低下させるので、両要素のバランスを取ることが求められてると主張する


◯政治とインテリジェンス
・国家首脳は、分野別に専門能力の高いインテリジェンス専門家を数名選び、首脳が関心をもつ事項についてのみ当該専門家に率直に語ることを命ずる
・国家首脳は、インテリジェンス専門家が耳障りな情報を伝えても、それに対して感謝し、専門家が率直に語れば語るほど当該専門家を大切にするように努める
・国家首脳は専門知識に裏打ちされていない見解には耳を傾けない
・国家首脳は、意見に十分に耳を傾けるが、政策は自らの政治決断で採択する
・国家首脳は、自ら決断で採択した政策を断固貫かなければならない
・上記を満たさなければ、雑多な意見に振り回されて、最終的には国民の信頼を失う


◯情報工作の定石
疑惑が抱かれにくい通常の接触の中で機密情報をもらすというのが情報操作工作の定石だ


◯アメリカの国内宣伝
アメリカにとっては、戦時でも国内宣伝の方がプロパガンダよりもはるかに重要である
内部さえしっかりしていれば、他国を潰すことなど簡単だと思っている


◯他社の行動原理
我々には理解できない行動をする国家や組織も鼓動原理を持っている。それを読み取ることができないのはこちら側に偏見があるか間違っているかである


◯シュタージ
東ドイツの秘密警察
2つの系譜がある。ナチスのゲシュタポとそれに添え木されたKGBである


◯シュタージの職務
罪の意識や後悔の念がまるでないのは、職員に対する教育が「われわれは政治と関係なく言われた職務を忠実に遂行する」ものだからである
それがシュタージの怖さでもある


◯ドイツ人インテリジェンスの弱点
物事を徹底的に理論的に分析し、法則性を捉えて、それを現実に適用するという優等生的な思考から離れることができないこと


◯大敵宣伝のポイント
現在の科学では手の届かない、摩訶不思議な動きをする人間心理が対象なのだから、単に学問的な態度だけで大敵宣伝ができると思ったら、大間違いである
「大敵宣伝で二番せんじは禁物である」


◯スターリンの信仰
グルジア正教の神学学校出身
キリスト教の教義と宗教の持つ力を熟知していた


◯ウボデカ
旧ソ連時代の外交世話部。外務省はここでしかチケット等の手配ができない
ソ連外務省の附属機関であるが、KGBの出先機関であるということは公然の秘密だった


◯帝国主義と民族
民族の関係が急速に良くなったり、悪くなったりするのは、帝国主義の特徴である。
帝国主義国は、少数民族にあたかも同情するがごとき振りをして自国の利益だけを追求する
少数民族の民族紛争は、背後の大国の思惑で発生する


◯チェチェン、イングーシ人の血の掟
チェチェン、イングーシ人の男子は、仇もしくは仇の7代目までの男系子孫を殺すことが義務付けられている


◯イスラエルの海外情報担当
外務省、モサド、アマン


◯イスラエル外務省
イスラエルと関係を持つ国家担当


◯モサド
自国の驚異となる、その大多数は外交関係を持たない諸国


◯アマン
軍事に関係する事項ならば国内、国外すべてを担当する


◯国家のミスと首相と官僚
首相の判断ミスで国家が消滅するならば、そのような首相を選んだ国民自身の責任になる。官僚の判断で国を誤ることは国民に対する背信行為である


◯ユダヤ人の考え方
「やられたらやり返す」
「ユダヤ人は全世界に同情されながら死に絶えるよりも、全世界を敵に回してでも生き残る」

必要ならば国際法を平気で破る


◯インテリジェンスと個人主義
個人主義が強化され、社会的格差が拡大すると、国力が弱くなる
インテリジェンス能力は、国力と正の相関関係があるので、国力が弱くなるとインテリジェンス能力も弱くなる


◯コリント(協力諜報)
情報機関の間での機微な情報の交換


◯外務省のコリント
外務省の外郭団体であるラヂオプレスの北朝鮮の要人の略歴や人事情報は高く評価されている
これらの情報はCIAやモサド、SVRがほしがる


◯国家首脳の発言
インテリジェンスの世界では、国家首脳の重要な内容が平場で口にされたときは、裏での工作は相当進んでいる


◯カトリック協会とバチカン
カトリック協会は、強度の中央集権体制を取っているので、個別の協会の情報は司教区に集まり、司教区の情報は大司教区に集まるといった形で、最終的にバチカンにすべて集まる
宗教的情報以外に、政治、経済、社会情報もバチカンに集まってくる


◯宣教師
宣教師は、赴任先の言語、文化を完全に習得して、相手の内在的論理をつかんだ上で、カトリックの教えを広めることが奨励されている



◯中国のインテリジェンスの特徴
標的を驚異に対してのみに絞る、すなわち戦線を縮小する。敵を作らない
国内ではイスラムとの対立があるため、共産主義国を標榜しながらバチカンとの関係を正常化した


◯中国天主教愛国会
中国の独自のカトリック教会。中国政府公認
ローマ法王庁は認めていない。
司教人事権はローマ法王庁にのみあり、中国はそれを認めない


◯インテリジェンスとヒュミント
結局の所、インテリジェンスはヒュミントに始まりヒュミントに終わる


◯為政者と新聞
為政者の行動は新聞によって影響をうけることが大きい。
公開情報を整理しておくことは重要である


◯金正日と新聞
金正日も新聞の影響を受ける。米中日韓の新聞の影響を受ける。


◯ヒュミントの情報元
元政治家など、権力の内在的ロジックを理解したOBは貴重である
また対象としてトップより、ナンバー2の方が手強い
電話交換手も重要だ


◯防諜機関の調査
公務員や学者のように収入が限られている職種で、外国人に提供できる情報を持っている人物の生活が急に派手になると、防諜機関は内定を開始する


◯外交官からプレゼントされた場合
なにか下心があって送ったに違いない
相手にもらったプレゼント(ここではネクタイ)をそのまま返したのでは情報工作のキャッチボールはできない
ネクタイを2本買って、相手の誕生日にプレゼントする
そして、相手もつまらない賄賂耕作をやめ、五分と五分の情報強力に踏み出してくる可能性がある


◯本を出す人
本を出すような人間は、自分の主張を理解して欲しいという欲望がある


◯相手にものを渡す場合
もらうより借りた方がよい。
借りることで必ず返さなければならないので、二度目の接触が自然に担保される


◯工作と食事
相手と親しくなるには食事が良い。食事をともにとることで心理的に警戒感がなくなる
鍋料理やバーペキューなどは特によい


◯太った外交官
太った外交官は7割方ヒュミントのプロ


◯高級レストラン
工作相手には高級レストランがよい
第一に、こちらが相手を高級レストランで接待するに値する重要人物と見られていることを示すことができる
第二に、ヒュミント担当官が自由に金を使う権限を持っていることを誇示できる


◯食事の保守性
人類は思想、文学、音楽については外来文化を柔軟に受容することができるが、食物に対しては保守性がとても強い


◯外交の知恵
外交の世界ではいまだにテープやICレコーダーを置いて動かぬ証拠となる記録をとることはない
あえて言った言わないの水掛け論になってどちらが嘘をついたという決着がつかないようにするのが外交の知恵だからだ
首相や外相が公式会談で通訳を使うのはいざというとき通訳のミスということで逃げ道をとうしておくためだ


◯ヒュミントのプロの心性
「プレゼントをするのは大好きだが、もらうのは大嫌い」


◯防諜の鉄則
普通の人間が日常的に守ることができない規則は導入しても意味はない


◯外交伝書使
クーリエ。国際法で身分保障が与えられている
外交行嚢(特別な封印がされたバッグ)を運ぶ


◯伝達方法
インテリジェンスの世界では、電話や電信よりあえて原始的なローテクの方が信頼される


◯相手国を知るための重要書1
各国の教科書を研究するのは文書諜報の基本だ。教科書で提供される情報や理論で当該国民の内在的論理が形成されているので、工作をかけるためにはそれを研究するのが早道である


◯相手国を知るための重要書2
古典と神話。
心の奥底に刷り込まれている、普段我々が気づかない内在的論理が分かる


◯インテリジェンスに掛かる人間とは
「インテリジェンスとは基本的に汚い仕事だ。だから、品性のよい人間にしかできない」

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